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2007年10月

ハンサム・ザ・キャット~捨て猫物語~ 〈8.変革の鐘の響き〉

 久しぶりにぐっすり眠れたような気がする。心地よい気分で腕を伸ばすと、右手の先に何か触れた。無意識のうちに指でそれを掴む。長くしなやかな髪の毛。

『あれっ? わたしの髪の毛ってこんなに長かったっけ?』

 指通りの良い髪の毛を、つい、と引っ張ると、自分の頭から生えていないような違和感。同時に右肩に暖かい感触が。

『えっ!?』

 右に首を回すと、目を凝らして見るまでもなく、わたしの隣に人間が寝ている。寝ぼけているのかしらと思いつつ、横ずさりしながら、少し身を起こしながら、誰なのか確認しようとすると、その人間がこちら向きに寝返りを打った。見た事のない人物である。

 鼻筋の通った色白の顔、長くて黒い睫毛、形の良い唇、漆黒の長い髪が縁取る、神々しいまでの美人。まじまじと見つめていると、その長い睫毛が静やかに身を起こして、美しい瞳が姿を現した。その瞳はわたしを認識するや否や、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。

 がぁ~ん!! 衝撃がわたしの瞳を貫いて、その瞬間、状況判断は彼方の空に吹っ飛び、魅入られたように、凍りついてしまった。

 その美人は、状況には一切頓着せず、俯きの体制に緩やかに身を起こすと、両手を踏ん張りながら、体を後ろに反らせて、大きく口を開け、大きな大きな伸びをした。長い髪が背中でふるふると揺れ、しなやかなその仕草は、草原に生きる猫族のよう。

「おはよう、まぁや」

 が、がぁ~んん!! 第2波の衝撃がわたしの理性を揺るがした。

「どうかしたの? まぁや?」

 どうかしたと言う次元を超えた事態に声もでない。・・と、その美人がいきなり、つ、と顔を寄せて、わたしの頬に頬をスリスリして、暖かい舌で舐めたのである。

「!!?」

「大丈夫?」 と、わたしの顔を覗き込み、

「あれっ? なんだか変だよ。まぁやの顔、小さくなったみたい」

 そして、右手でわたしの顔を優しく撫でると、

「えっ?」 と、びっくりしたように自分の手を見つめる。

 右手を開いたり閉じたり。さらに、左手を握ったり、振ったり。

「どうしたんだろう。僕の手、人間の手みたいに見える」

 戸惑った様子で、救いを求めるようにわたしを見る。衝撃を振り払って話そうとしてみたが、状況判断する脳味噌がどこかに吹っ飛んでいるので、もどかしくも話す言葉が見つからない。

「あっ、そうだ! もしかすると・・・。ねぇ、まぁや。僕、人間の言葉を喋ってるよ。そうでしょ?」

「・・・」

「すごいね。僕、人間になったんだ。この手も僕の手。まぁや!」

 いきなり飛びついてきて、抱きついた。ふわっと柔らかい感触が何かを思い起こさせて、理性のかけらが戻ってきた。

「ハンサム?」

 腕を振りほどくと、自分自身でも信じられないまま、聞いてみる。

「うん。そうだよ。僕、人間の『ハンサム』になったんだね」

 夕べの出来事が蘇る。そんな、まさか。ありえない。と、思いながら、慌てて引き出しの中を確認しに行く。カプセルの中に戻しておいた石は形もなく、さらさらと砂の様なものがこぼれ落ちた。一体、こんな事が!? 幾つもの否定の言葉がよぎったが、目の前のひとつの真実に圧倒された。

「本当に、猫だった『ハンサム』?」

「うん。僕、夕べまでは猫だった。今日は人間のハンサム。まぁやの願い事が叶ったんだね。嬉しい?」

 嬉しくないと言えば、嘘になるが・・・。頭の中は事態の認識と収拾方法の模索を試みていた。

「まぁや、僕お腹すいたよ。早く起きて。朝御飯食べたいよ」

 そう言うと、『ハンサム』は台所に行こうとして、ベッドから身を起こして立ち上がった。『ハンサム』は雄猫だったので洋服は身に着けておらず、かくして、第3の衝撃波は家中に響き渡った。

 その時、我が家には父と母と、兄と、弟と、家族全員がそろっていたわけで、何事にも優等生であるわたしが、はしたなくもあげた奇声は、我が家にとって、変革の時の始まりを告げる鐘の響きのようであった。

「どうかしたの?麻也?」

 母が階下から声を掛けてきた。ドアから顔を出して、

「大丈夫。今日提出する課題を忘れていただけよ」

 と、叫ぶと、みんなの聞き耳と興味が自動的に収束していく様子が見て取れる。優等生のわたしが課題を忘れる事など考えられないという状況があって、納得してもらえたのかもしれないが、年頃の娘があげた叫び声に対する反応にしては少々納得いかない。とりあえず、危機は回避出来たものの。

Henkaku

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ハンサム・ザ・キャット~捨て猫物語~ 〈7.ふたりぼっちの誕生日〉

 「森岡くん、告白したのかな?」

 「あの様子じゃまだなんじゃない?」

 「告白したって無駄だと思うよ。あの堅物副会長、そっち方面興味なさそう」

 「なんか、冷たいっていうかさ。鉄のバリア張っているよね」

 「そうそう。『わたしの周り3メートル以内に近づかないで』ってやつ」

 「どこが気に入ったんだろ?」

 「固い所がいいんじゃないの? 似たもの同士で」

 「えぇ~っ? 森岡ってむっつりエッチのオタク系じゃない? そっち方面にもてるんじゃない?」

 キャ~ッと喜声があがったあと、声のトーンが急に密やかになって、別の話題になった。

 「3組の北丘理早って知ってるよね。彼女、この間、ふたりぼっちの誕生日やったんだって」

 今度は密やかなキャ~ッがあがった。

 「で、どうだったって?」 と、全員の注目がゆかりに集まる。

 「玖美の話では、とっても良かったって言ってたらしいわよ。彼、すごい事にちゃんとアレつけてくれたんだって」

 「本気なんだ」

 「かもね」

 「わかんないよ。遊び慣れているのかも。なにしろ、相手は大学生だし」

 廊下の曲がり角で、偶然、跡宮由佳、寺道ゆかり、伊達美土里の三人グループのお喋りに出くわした幸坂麻也は、出るに出られず、暫く話を耳にした後、図書室に引き返した。

 「お母さん、明日、わたしの誕生日なの。大きなケーキ買ってきてもいい?」

 「あら、そうだったわね。いいわよ」 と、母。

 「佑希、今日、お姉ちゃんの誕生日だから、大きなケーキ買ってくるからね。夕食後に切り分けるから食べに来てね」 ドア越しに弟に伝える。

 「兄さん、今日、わたしの誕生日なの。夕食後にケーキ切るから食べてね」 と、予備校へ出かけの兄の後姿に呼びかける。生返事もなく、頷いたとも思えないが、聞こえていない筈はないと思う。

 父には夕べのうちにメモを玄関の靴ベラに貼り付けておいた。

 夕食の準備は5人分でも、食べる時間はバラバラで、大抵ひとりで食べる。虐めを目撃してからは佑希が一緒に食べることもあるが、佑希はあまり触れて欲しくないようで、勉強を理由に自分の好きな時間にひとりで食べたがる。

 夕食後、後片付けを済ませると、しばらくひとりでダイニングに座っていた。父と母はまだ帰っていないし、兄も弟も来そうにないので、ケーキを切り分けて冷蔵庫に入れ、自分の分の皿だけ持って部屋に行った。ハンサムは珍しく食後に出かけて行って、まだ帰っていない。

 ケーキの上に一本だけローソクを立てると、

 「麻也、18才の誕生日おめでとう」と、自分で祝う。

 いつの頃からか恒例になっている、いつもどおりの誕生日なのに、なんだかちょっと寂しい。ケーキを食べようとした時、ドアにカリカリと小さな爪を立てる音。開けて欲しいというハンサムのサインがあった。

 「おかえり。今日はこんな時間にどこへ行ってたの?」

 ハンサムは入ってくると、机の上に飛び乗って、口にくわえていた一輪の菊の花を置いた。

 「まぁ。これ、どうしたの、ハンサム?」

 猫は飼い主に自分の取ったものを見せるという話を聞いたことがあるけど、今までにハンサムが何かを持ってきた事はなかった。それに、猫が植物を持ってくるという話も聞いた事がない。

 「どこかに落ちてたの? それとも・・」

 と、ハンサムは菊の花を再び口にくわえて、麻也の手元に置きなおした。

 「えっ? もしかして、これ、わたしに?」

 「ニャン」 と、小さく肯定する。

 びっくりして、暫くの間、声が出なかった。急に込み上げるものがあって、慌ててハンカチを探した。

 「ハンサム。わたしの誕生日だって事分かるのね。ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだわ」

 抱きしめると、スリスリして舌の先で頬を舐める。今日は緑の匂いがする。どこかの藪の中で花を探したのかもしれない。茎は噛み切ったようにギザギザになっていた。小さなクリスタルの花瓶を持ってきて、花を差した。ケーキはハンサムと半分こ。

 一緒にお風呂に入っている時も、ベッドに入ってからも、ハンサム相手に饒舌になっていた。

 「わたしってオタク好みなんですって。なんだか失礼しちゃう、勝手に決めて。バリアなんか張ったりしていないわ。気に入るような男子がいないだけよ」

 と、言ってはみたものの、そういう事に使う時間がないせいかとも思う。受験勉強と家事は結構両立が厳しい。3年になってからはクラブ活動は休んでも構わない事になっていたが、生徒会活動は止められないし。

 「今日はハンサムとふたりぼっちの誕生日だわ」

 そう言うと無性に寂しさが募ってきた。

 「ハンサムが人間だったらいいのに。きっと、いろいろ話し合えるのに」

 やっぱり猫語と人間語では埋めきれないものがあると、思春期の麻也は思う。なかなか寝付けずに、ぎゅっとハンサムを抱きしめて寂しさをこらえていた。カーテンの隙間から満月が明るい光を投げかけている。ふと、脳裏に閃くものがあった。

 怪しげな出来事を思い出して満月を見る。ベッドから起き出して、机の引き出しの隅からクリスタルブルーのカプセルを取り出した。カプセルを開けて『月の石の使い方』という説明書を読む。

 『満月の夜、月の光を浴びながら、両手にこの石を挟んで持ち、満月に向かって三度願い事を心の中で唱える。次に、満月にこの石をかざし、目を閉じて願い事が叶う事を願う。明日の朝、石が粉々になっていれば、24時間以内に願い事は叶うであろう』

 『あろう』っていう所がミソかもね、と思いながら、ダメもとだわ、と、

 『ハンサムが人間になりますように』 麻也は本気で願った。

 願い事の儀式が終わると、憑き物が落ちたように、自分で自分が可笑しくなった。ひとしきり笑うと、不思議に心がスッとして、吸い込まれるように眠りに落ちた。

Hutaribottinotanjoubi

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ハンサム・ザ・キャット~捨て猫物語~ 〈6、浪人生の恋〉

 幸坂孝之は追い詰められていた。この間の模擬試験の志望校の判定はCだった。もう少し頑張らなければならないのに、もう秋だというのに、勉強に身が入らないのだ。このままでは二浪になりかねない。

 原因は自分でも分かっている。受験生に恋は禁物なのに、抑えようとしているのに、いつの間にかその事ばかり考えている。どうにもならない。気持ちの整理がつかない。どうしようもないイライラのジレンマをぶっ飛ばそうとバイクを飛ばす。

 あれは夏期特別講習の2日目だった。講習が終わって帰ろうとしている時だ。予備校の事務室の受付で、一生懸命頼み込んでいる少女がいた。

「受付の締め切りはもうとっくに過ぎて、今日は講習が始まって二日目なんですよ」

「ええ、分かっています。でも、今からでもどうしても受けたいんです。今からではダメなんて言わないで下さい」

「終わった分の補講はやりませんし、料金は正規の金額になりますよ。それでもいいんですね?」

「はい、構いません」

「それじゃ、ちょっと聞いてきますから、待っていてください」

「はいっ。よろしくお願いしますっ」

 少女は勢いよく深々と頭を下げた。と、その拍子に背中に背負っていたリュックが揺れて、書類を出した後きちんと閉めていなかったのか、開いているチャックの所からペンケースが飛び出した。ケースは受付の窓口にぶつかってから床を転がり、孝之の足元までやってきた。

「あの、これ、落ちましたよ」 

 孝之が拾って渡そうとすると、頬をうっすらとピンクに染めた少女が、

「あっ、すみません」

 と、言って勢い良く手を出した。ヒンヤリと心地の良い冷たさの少女の手が、孝之の手ごと、ペンケースを掴んだ。手とペンケースを一緒に手元に引き寄せたのに気がついて、

「あっ、ご、ごめんなさいっ」

 思わず、手を離した少女。ピンクに上気した頬がますます色を濃くして、長い睫毛がすまなさそうに瞬いた。孝之の心はその瞳を見た瞬間、時間と空間を超えた何物かに捕らわれてしまったのだった。

 急に講習を受けに行くのが楽しみになった孝之に、試練が襲ってきた。あれだけ熱心に講習を申し込んでいた少女は、2週間の講習にもかかわらず、1週間受けただけで、講習に出てこなくなったのだ。

 お腹の底がもぞもぞする落ち着かなさ。みぞおちの辺りがきゅうきゅうと縮むような感覚。孝之は勉強が身に入らない状況を打破するべく、行動にでた。

 さり気なく見ておいた彼女の名前をもとに、受講生に情報を聞き回る。受付の人になんとか理由をつけて、住所を調べる。彼女の住居まで押しかけたまではいいが、二の足踏んで、訪ねる勇気を引き出すのに2日かかった。

「ごめんください」

 玄関の引き戸を開けると、奥の方から彼女の母親らしき婦人が出てきた。勇気を振り絞って、考えてきた言葉を口にする。

「あの、僕は幸坂孝之といいます。樫原さんと同じ予備校の夏期講習を受けている者ですが、樫原さんが途中から出て来ていないので、どうしたのか、様子を聞きたくて・・」

「えっ? なんですって? 予備校の夏期講習? あの子はまだ高校三年生ですよ。予備校には行っていませんが」

「あ、あの、予備校の夏期特別講習なので、現役の高校生でも受けられるんですが」

「あの子が特別講習を受けに行っていたとおっしゃるんですか?」

 どうやらなにか事情があるらしく、彼女もいない様子で、埒が明かないのでそうそうに引き上げることにした。

 それからというもの、街を歩いていても、彼女と同じ髪形をした同じくらいの背格好の少女を見かけると、ついつい目で追ってしまうようになった。それが功を奏したのか、しばらく経った頃、隣町のショッピングモールで、とうとう実物に出くわしたのだった。

 ソフトクリームを片手に、ひとり、モールのベンチに腰掛けて、何か思わし気にうつむき加減にしている様子は、いかにも訳ありのように思えた。

 この千載一遇のチャンスを逃してはならない。はやる心を引き締めながら、彼女に声をかけるべく近づく孝之。距離にしてあと3メートルの所で、新たなる試練が孝之に襲い掛かってきた。

「待った?」

 年の頃なら孝之と同年代の男の子が小走りに彼女に近づきながら言った。

 と、彼女の表情がぱぁっっと明るく輝く。その輝きは一瞬、孝之の脳髄に法悦を与えたかと思うと、次の瞬間、硬直の拷問となった。

 男の子は彼女の肩に手を回し、

「いこうか?」 と、言って、ふたりで孝之に背を向け、立ち去って行った。

 孝之の通う予備校は彼女の住む街からかなり離れていた。彼女の住む街にも予備校はあるのに、わざわざ遠くの予備校に受けに来ていたわけで、彼氏と何らかの関係があったのかもしれない。

 呆然と二人を見送る孝之に、恋の未来図は見えなかった。

 遠乗りから帰ってくると、麻也が飼いだした猫も外から帰ってきたところだった。孝之の部屋の前を通りすぎて麻也の部屋に行こうとしていたらしく、孝之を認めると、ちょっと用心したような素振りで、ドアからぐるっと離れて通りすぎようとした。わけもなくむかついた孝之は、

「うわぁおう!!!」 

と、訳の分からない大声を出し、訳の分からないままびっくりして逃げるハンサムを追いかけ、台所の隅まで追い詰めて、鬱憤晴らしを済ませた。

Rouninseinokoi

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ハンサム・ザ・キャット~捨て猫物語~ 〈5.小学生の悲喜劇〉

 「幸坂く~ん」

 窓から見ると、小学生が二人、玄関の前で声を掛けている姿がある。ちょっと太めで体がでかい男の子と、一見賢そうに見える小柄な男の子。迎えに来るのは大抵この二人だが、時折、先生が来たり、女の子が来るときもある。

 「佑希! お友達が学校に行こうって、誘いに来てくれたわよ」 

 母が弟の部屋の前で呼ぶ。部屋には弟が自分で取り付けた鍵が内側から掛かっている。甘い声を出したり、厳しく諭すように言ってみたり。いろいろ努力をした後で、ガックリとしてため息をついて、明日は頑張ろうね、とか何とか言って、玄関に出て、迎えの子供達に言う。

 「今日はありがとう。今日はダメみたいだけど、また来てね。先生にもよろしく伝えておいてね」

 弟は女の子が来る時だけしか登校しないのだ。

 それから母は、気を取り直して、他人の子供のカウンセリングをしに出かける。いつものパターンである。

 自分の子供が不登校中なのに、その原因や解決方法も分からないのに、その経験を生かしてカウンセリングが出来るなんて、麻也にはこの世の不思議に見える。

 母は知らないが、麻也には原因が分かっている。いつも迎えに来るあの二人の男の子達にいじめを受けているのだ。たまたまそれを目撃した麻也は、すぐに母に言うべきだと弟に言ったのだが、逆に固く口止めされてしまった。

 小学生にも自己の尊厳はある。言っても理解してもらえない状況を他人に知られたくないのだ。女の子は関係ないから、義理を立てて登校する。弟に言わせると、先生は見かけだけの日和見主義者で、義理をたてる必要はないのだそうだ。

 かくして、小学5年生の弟は、自分の部屋で自分で勉強している。辞書に参考書、通信教育、インターネット。その気になれば疑問の答えには事欠かない。勉強の事だけを考えれば、学校は行く必要さえ無いのかもしれない。

 でも、と麻也は思う。本当にこれで良いとは思えない。何をどうしてあげれば良いのか、麻也に出来る事は何なのかと。いじめがカミングアウトしたところで、良い方向に変わるとも限らないのが、今の学校状況なのだから。

 美味しい食事を作ってあげること。それが今、麻也が佑希にしてやれる、せめてもの事だった。

 家族のみんなが出かけると、家の中は自分ひとりの天国だ。佑希は部屋から出てきて大きな伸びをした。麻也が最近拾ってきた猫は、普段は外に行っている事が多いのだが、今日は雨降りで濡れるのが嫌なのか、珍しくソファに横になっていた。

 「おまえ、いじめられていたんだってな。猫だってまっとうに生きる権利はあるのに、ヒドイ話だよな」

 人馴れしているのか、たまにしか会わない佑希が触ろうとしても逃げようとしない。

 「バカだな、おまえ。人間が近づいたら構えなくちゃ。そんなお人好しだからやられちゃうんだよ」

 そう言いながらも、柔らかな毛皮の感触に、撫でる手を止めない。

 「でも、おまえは運がいいよ。お姉に拾われて、大事にされて」

 佑希が抱き上げると、頬をスリスリしてから、舌の先で頬を舐める。

 「おまえってさ、誰にでもそうすんの?」 くすぐったそうに頬を撫でる佑希。

 「猫にだっていろいろいるんだろうけど、おまえの辞書に人間不信って言葉はないのか?」

 根っからのバカ猫なのか、それとも、人間の本性がわかるのかも・・と、心の中で考える。

 「ちょっと付き合えよ」 と、台所に連れて行って、下の棚から台所洗剤を取り出して皿に流し込む。

 「美味しいぞ。飲んでみな」

 ハンサムは匂いを嗅いでみただけで飲まずに、ニャアォと鳴いて冷蔵庫のほうを見る。佑希は皿を洗って、冷蔵庫の中から牛乳を取り出し、入れてやった。ハンサムが牛乳を舐めるのを見ながら、

 「無理やり飲ませる事だって出来たのに、おまえ、僕の事、信じてたの?」

 ふと、灯が付いたように、窓の外がほぅっと明るくなったようだった。雨が止んで太陽が出てきたのだろうか。すると、それに気が付いたハンサムは、ひと声佑希に挨拶すると、麻也が作った猫専用の出入り口から外に出て行った。

Syougakuseinohikigeki 

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サミィのモノローグ(2)

 今日でブログを始めて一ヶ月目のアニバーサリーです。

 ヘルプを見てもよく分からない用語があったり、まよまよしながら、勉強の日々です。

 最近、ようやくブログの形が整ってきたという感じですが、まだまだ、初心者なので、そのへんの所はよろしくね。

Summy

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ハンサム・ザ・キャット~捨て猫物語~ 〈4.偶然と必然の休息〉

 シャワーを浴びてドライヤーがかかると、泥だらけの中から、ふんわりと毛色の整った猫が現れてきた。

「まあ。君って、ハンサムさんだったのね」

 話しかける麻也に、助けてもらったお礼を言っているかのように、穏やかな鳴き声で答える。物怖じせずに微笑みかけているような様子はとても野良には見えない。首輪は無いけど、きっと飼い猫だったのだろう。

 警察に迷子猫の問い合わせをしたり、例の公園の周りで聞き合わせをして、飼い主を探してみたが、見つからなかった。

「ねえ。君、うちの子になる気はない?」

「ニァ~ォ」 麻也の問いかけの意味が分かるように、甘く答える。

「ふふっ。そう。じゃあ、君の名前をつけなくちゃ。そうね。君はハンサムな猫だから、『ハンサム』はどう? ぴったりでしょ?」

 ハンサムに異議は無さそうだった。

 「ただいま」 麻也が声をかけると、何処からかハンサムが現れて『おかえり』と声を掛けてくれるのが日常となった。

 「今日はね・・・」 ハンサムと一緒にお風呂に入りながら、一日の出来事を話すのが麻也の日課になった。ただそれだけのことが、麻也の心の扉の中に暖かい風を運び込み、麻也は自分の中に憩いの領域が広がるような感覚を覚えた。

「お姉ちゃん。猫、飼うことにしたの?」 ハンサムが着てから5日目に弟が気がついた。

「あら、この猫、家に居ついちゃったの?」 最初の時に言っておいたのを忘れた母が、一週間目に容認した。

「おい、俺の部屋には入れるなよ!」 10日目に兄が釘を刺した。

「猫? 飼うのはいいが、ちゃんと面倒みなさい」 父には、たまたま休みの日に居合わせた時、報告しておいた。

「幸坂さん。何かいい事でもあったの?」

「え? ううん。特には何も。どうして?」

「なんだか最近楽しそうに見える」

 跡宮由佳に言われて自分でもびっくりした。猫を飼い始めただけなのに。ハンサムといるとほっとしてリラックスするのは事実だけど、他人から見ると楽しそうに見えるんだ。ま、いいか。それと、今日は、帰り道でもう一つびっくりする事があったんだ。

「幸坂さん」

校門の所で呼び止めたのは隣のクラスの森岡聡史。生徒会の会計担当。なんだか雰囲気がいつもと違って見えたっけ

「あの・・・」

「何か用事ですか?」 

 なかなか用事を切り出そうとしないので促すと、目がうろうろして、顔が心持ち赤くなったような気がする。

「あ、ああの・・・。今度の会議は2日後でしたね?」

「ええ。文化祭の仮装行列の進行に関して、が、メイン議題の一つです」

「そ、そうでしたね」

まだ、なにか言いたそうにしているので、

「他に何か?」

 と聞くと、言葉が喉にひっかかったように唇が痙攣して、ますます赤くなって、言葉が出てこない様子だった。

 突然、じゃあ、と言って回れ右して行っちゃったけど。あれって、もしかして、もしかすると、もしかだったのかな? わかんないけど。もしかでも、あんまりタイプじゃないけど、嫌な気分じゃないわ。

 湯船でうっとりとした表情のハンサムが聞いている。ぅふふっ。わたしのタイプは君のような可愛い癒し系かも。

Kyuusoku

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