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ハンサム・ザ・キャット~愛の因数分解~ 〈11.プロポーズのABC その1〉

 あれから、ハンサムを襲った相手は姿を現さなくなったが、ふたりとも警戒だけは怠らないよう注意し合っていた。

 そんなある日、学校から帰ると、ハンサムに荷物が届いていた。送り主の名前は書いてない。不気味に思ったハンサムは麻也に相談した。

「運送会社の名前もないわ。誰かが直接届けに来たのかしら。まさか、爆弾じゃないわよね」

 耳に当ててみても音はしないし、重さもさほど無い。母に聞くと、設楽という人が頼まれて届けに来たという。誰からとは言ってなかったらしい。

「でも、設楽さんは何も言ってなかったし、他の仲間も何も言ってなかったよ」

 おそるおそる静かに包みを解く。中からプレゼントのリボンのついた袋と文面だけの手紙が出てきた。

『月影へ。麻也に使ってもらう事』

「一体、誰からだろう?」

 ふたりは顔を見合わせた。

「わたしに使ってもらうって、どういう事なのかしら。もしかして、蓮河さん?」

「蓮河さんなら、どうして名前を書いてないの? それに、どうして僕宛なの?」

「さあ? もしかして、ハンサムのお友達みんなからのびっくりプレゼントなのかしら」

 そうっとプレゼントの袋を開けて見ると、出てきたのは、ふわふわの毛で出来た猫の縫いぐるみの様な寝巻きだった。

「僕が猫だったって事、誰も知らないはずだよね」

「ええ。そのはずよ」

 麻也が寝巻きを手にとって見る。何も異常なものは見当たらない。

「うふっ。可愛い!」

 ふわふわした着ぐるみのような寝巻きは、頬にすりすりすると、本当の猫のような感触で、気持ちがいい。

「これ、ハンサムがもらったのよね。わたし、気に入っちゃったわ。使ってもいいかしら?」

「麻也にって書いてあるし、いいよ」

「じゃあ、早速、今晩使ってみるわね」

 その夜、お風呂から出ると、麻也は猫ぐるみの寝巻きを着てハンサムに見せた。

「どう? わたし、猫になっちゃった。これ、わたしにピッタリよ」

 と、猫の仕草を真似てみる。

「ま、ま、麻也!!」

 ハンサムはドキッとした、どころではなかった。麻也のコスプレに近い猫ぐるみは、ハンサムの脳髄を直撃した。麻也の何も身につけていない姿よりも、刺激的に目に映ったのだ。お風呂に入ってもいないのに、動悸に襲われ始めるハンサム。

「今日はこれで寝るわ」

「えっ! そ、その格好で寝るの?」

「この寝巻き、とっても気持ちがいいわ。ハンサムが猫だった時、一緒に寝てた時みたい。ほら、来て、触ってみて」

 と、ベッドに寝ころんで腕を差し出す麻也。ハンサムは麻也の横に行って、震える手で麻也の腕を触ると、思わず麻也を抱きしめた。

「麻也!」

「ハンサム、大丈夫? 動悸が聞こえるわ」

「麻也、麻也、僕は、僕は、」

「?!」

 熱に浮かされたようなハンサムの目を見て、麻也は悟った。目を閉じて、腕を優しくハンサムの首に回す。ところが、それ以上何も起きないので、しばらくして目を開けてみる。

「ハンサム?」

 見ると、ハンサムは苦しそうに、

「僕は、僕は、麻也と・・」

「ええ。わたし、いいわよ。いいわよ、ハンサム」

「え? 僕、まだ何も言ってないよ」

「何も言わなくても分かるわ」

「えっ? 僕が麻也と結婚したいって事分かるの?」

「えっ? 結婚?」

「うん。僕、今、すごく麻也と結婚したい。指輪も買ったんだけど。でも、僕、まだ義務教育の勉強も終わっていないし、」

「勉強と結婚とどういう関係があるの?」

「お父さんが、一人前の人間にならないと結婚したらダメだって。一人前の人間になるためには義務教育を終えた方がいいって、お母さんが」

「ハンサム、お父さんやお母さんと結婚について話した事があるの?」

「うん。結婚はプロポーズをしてからするものだって、仲間に聞いたんだ。プロポーズするためには指輪がいるって。僕はその時、お金を持っていなかったから、お母さんに相談したら、お父さんが呼ばれてきて、それで、指輪を買う前に勉強を終わらせないといけない事になって」

「義務教育を終わらせたら結婚してもいいって、お父さんが言ったの?」

「お母さんがそのような事を言ってたんだけど」

「分かったわ。ハンサム。わたし、協力するわ」

「え? 協力?」

「わたし、ハンサムにプロポーズされたいの」

「本当?」

「だから、早く教育課程を卒業できるように勉強を手伝うわ」

 麻也は猫ぐるみを脱いで普段の寝巻きに着替えた。ハンサムが手続きを必要とするなら、わたしもそれまで待つわ。

 人間になって、社会生活を始めた頃、ハンサムは、文字や計算を覚える必要を感じて、麻也の弟の祐希に勉強を教えてもらっていた。夜間高校に通うようになってからも、日曜日等にいろいろ教えてもらったりしている。その上、これからは、学校から帰ってきてからも麻也と勉強する事になった。

 翌日、父や麻也や祐希が出かけた後、ハンサムが仕事に行こうとしていると、電話が掛かってきた。

「月影さんによ。国際電話だけど、相手は日本人みたいだから大丈夫ね?」

 出かける用意をしていた母が受話器を渡す。

「わたしはもう出るから、後、家の鍵、頼むわね」

 そう言っては母出て行った。国際電話って、一体誰なのだろう。ちょっと気構えて電話に出る。

「もしもし、月影です」

「荷物は届いたか?」

「えっ? 荷物って? あなたは誰?」

「僕だよ。博行だ。で、使ってみたか?」

「尾之多君! あの荷物は尾之多君が送ってくれたの?」

「そうだよ。設楽に頼んで届けさせたんだ。なんだか強力なライバルが現れたようだな。しかも二人の友達になったっていうじゃないか。ぼやぼやしていると麻也を取られちまうぞ。さっさとあれを使ってもらえ」

「あれって、あの寝巻き・・・?」

 夕べの事を思い出してちょっと胸がどきどきしてきた。もしかして、ああなる事を知っていた? でも、尾之多君は僕が猫だった事は知らないはずだけど。そういえば、前にも・・・。

「麻也の事だから大丈夫だとは思うが、蓮河は熱血漢だと聞いているからな。いつなんどき、麻也の心が動く可能性だってないとは限らない。そいつに横取りされるくらいなら、僕が横取りに入るぞ。分かったか?」

「わ、分かった。でも、どうして送り主の名前を書かなかったの?」

「僕が送った事が分かると、麻也が使わないかもしれないからな。内緒にしとけよ。でないと・・」

「わ、分かった。分かったから、その先は言わなくていいよ」

「よし。さっさとプロポーズしてしまえ。今なら麻也だってOK出すだろう」

「で、でも、その前に、麻也の両親に認めてもらわないと」

「バカ! そんな事を待っていたら千年先になるぞ。あれを麻也が使えば解決するだろうが」

「使ってくれたけど・・」

「何っ? それでも、何も感じなかったのか?」

「ううん。そうじゃないけど。とにかく、麻也と一緒に勉強する事になったから」

「ったく、そんな事をしている間に蓮河がプロポーズしたらどうする気だ?」

「麻也は僕にプロポーズしてほしいって言ってたから、大丈夫と思う」

「麻也がそう言ったんだな?」

「うん。それで、僕がプロポーズ出来るようにするために、勉強を手伝ってくれる事になったんだ」

「・・・ふぅっ。そうか。じゃ、とにかくがんばれよ」

 ふぅっ。ハンサムも同じように大きなため息をはいた。

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